ベイビーベイビーベイビー
 
 
「こんな事になって、ごめんなさいね」

 祥吾の母親は綾乃に優しく声を掛けた。

「いえ、私は祥吾さんの妻ですから……
 なのに、きちんと健康管理もしてあげられなくて…」

 綾乃がそう答えたのを、祥吾の両親は複雑な気持ちで聞いた。

 もちろん、祥吾の両親も、祥吾と綾乃の不仲による別居を知っていた。

 祥吾の母親は綾乃に

「綾乃さん、祥吾の意識が戻っても戻らなくても、どちらにしてもあなたには辛い人生になってしまうわ。
 まだ若いあなたならやり直せる。
 勿論この子の貯金やマンションなんかはあなたに譲りますから。
 お義母さんたちね、あなたには幸せになってもらいたいのよ」

と、遠まわしに祥吾との離別を勧めた。



 その時……

 綾乃は祥吾の後輩たちが持ってきた紙袋の中で、祥吾の黒い携帯電話が小さく震えている音が聞こえた。


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