ベイビーベイビーベイビー
 

 面会謝絶を解かれた病室には、知らせを受けた親類や祥吾の親しい友人が訪れるようになった。

 祥吾の両親はその度に思わず涙が溢れてしまうのであるが、自分たち以外にも心底から祥吾の回復を願う人たちの存在に強く励まされ、それは想像以上に支えになった。


 それは綾乃も同じであった。

 今までの事情はどうであれ、見舞客から見れば弱々しく祥吾の傍らに佇む綾乃は哀れに見えるものだ。

 祥吾の両親にするように、綾乃にも労いの言葉を掛けた。


「大変だったわね、あなたも無理しないでね」

 綾乃はその労いの言葉を、祥吾と別居してから一人で過ごした孤独な時間にまで向けられているように感じた。


 表情乏しく伏せられた綾乃の目にも、自然と涙が浮かんだ。




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