ベイビーベイビーベイビー
その時、突然背後から、
「佐竹さん、この連休をアメリカで過ごしているんですよ」
と、真理江に声を掛ける者があった。
真理江が驚いて振り向くと、そこにいたのは先月の飲み会で隣に座っていた中瀬という新入社員であった。
「こんにちは!偶然ですね!」
白いシャツにチノパンを合わせただけのカジュアルな服に身を包んだ中瀬は、飲み会で見たときよりも更に若く見え、表情も生き生きとしていた。
「ああ!中瀬君! この間はありがとう!
偶然ね、お買い物?」
真理江が尋ねると、
「いえ、ただの暇つぶしです。
自分もいつか佐竹さんみたいに海外駐在員になりたくて、たまに寄るんです」
と、自分が立ち読みしていたアメリカ東海岸のガイドブックの表紙を真理江にみせた。
アメリカ東海岸。
そこは真理江たちの会社の海外事業部が拠点を置いている場所であった。
真理江は、中瀬が海外事業部に属していることを思い出した。