ベイビーベイビーベイビー

 病室では祥吾の母親が、

「あぁあっ!……うぅ……」

言葉にはならない言葉を発し、もはや動揺を隠す事もせず、何かに憑かれたかのように激しく嗚咽をしていた。


 戸口に呆然と立ち尽くす綾乃を追い越して、皆も祥吾に次々と駆け寄り、こちらもすっかり理性をなくした様子で、それぞれに悔しい思いを祥吾にぶつけた。


 皆が中に入り扉が閉められると、入院して以来祥吾を診てきた医師が、

「14時25分のご臨終です」

と、祥吾の命の消えたのを皆に告げた。

 そして部屋にいた看護師と共に、恭しく一礼をした。


 最期の別れを悔しがる者たちの邪魔にならぬように、看護師が祥吾に繋がれていた呼吸器やら機器をどんどん外していくと、そこには眠るように横たわる祥吾が現れた。


 この身体に命が備わっていないなどと、誰もがにわかには信じられないほどに、祥吾は穏やかで優しい顔をしていた。

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