ベイビーベイビーベイビー
まだ扉が閉まる前にも関わらず、既に祥吾は自分の部屋の空気に、目には見えなくとも“馴染めない何か”が混在している事に気付いてしまった。
「またか――…」
祥吾の口から苛立ちの混じる、深いため息が漏れ聞こえる。
綺麗に磨き上げられ並ぶ自身の靴を横目に、汚れた靴を無造作に脱ぎ捨て、祥吾は片っ端から部屋中の灯りをつけた。
そして表情ひとつ変えず真っ直ぐに進んだ先、祥吾の家にある唯一のゴミ箱まで歩くと、その中を確かめるのだった。
幸いなことに、その中に祥吾を苦しめるものはなかった。
祥吾は不自然なくらいに何もない部屋で、強く拳を握りしめていた。