ベイビーベイビーベイビー
そして今、そのボードの前には、そこに飾られた写真の一枚一枚を丁寧に見ている綾乃の姿があった。
奇しくも三年前、綾乃が古澤家へ嫁入りした際に両親が持たせた、三浦の家紋の入った真新しい喪服に身を包んでいた。
長い髪は後れ毛もなくきっちりと纏められ、綾乃の人知れぬ静かな覚悟が感じられた。
未だ古澤の姓を持つ綾乃であったが、祥吾の父親からの申し出通り、立ち働く古澤の親類の中には入らず、昨夜の通夜に続き、両親とともに葬儀にも客として出席をしていた。
祥吾の生前、あれほど離婚を拒んだ綾乃であったが、こういう場面で古澤の一員でない事に、悔しさだとか無念さだとかいう感情は微塵もなかった。
そんなものは綾乃の欲しいものではなかったから。
綺麗な言葉を並べられたところで、所詮は他人――。
それを裏付けるように、綾乃が見つめる先に、祥吾と綾乃とが共に写った写真は、一枚も飾られてはいなかった。
綾乃は存在を消された哀れな自分に対し、今は哀しみよりも、自嘲の念が湧いてくるのだった。