ベイビーベイビーベイビー
「綾乃、そろそろ始まるわよ」
綾乃が振り返ると、綾乃の両親が数珠を片手に並んで立っていた。
綾乃が祥吾との思い出に浸っている様子を見た両親は、声を掛ける事をせず、後ろで静かに見守っていたのであった。
綾乃は静かに頷くと、母親に続くようにして、僧侶による読経の始まった式場の中へと進んだ。
場内を見れば、その参列者の多さと若さに驚かされる。
向こうは覚えていないであろうが、綾乃が祥吾との別居後も何度も目にした結婚式の写真に写っていた人物も数人が同じ客席に居て、それはとても複雑な思いであった。
(正確には綾乃のことを覚えているとかいないとか云うより、それどころではないといった風で、それぞれが目を真っ赤にして、祭壇に飾られた祥吾の遺影を見つめていたのであるが)
綾乃も僧侶の読経の進む中、遺影の中で満面の笑顔を浮かべる祥吾の顔を見つめていた。
何を考えていたのであろうか?
ただ、右手に強く握られたハンカチは、涙を拭うことには使われなかった。