ベイビーベイビーベイビー
そうこうしている内にも、真理江は身支度を整え終えた。
可愛らしいワンピースに身を包んだ真理江であったが、しかし、化粧にしても何にしても、いつも出勤時にしていること以上の事を、結局思いつかなかった。
時間に余裕があるのか、さほど急ぐ様子もなく、というより寧ろ時間が余ってしまった事に困惑した真理江の表情を、リビングに置かれたアンティークの姿見が捕らえる。
真理江は、
「休日に待ち合わせするのが久しぶりで、早く用意しすぎちゃうなんてね」
と、姿見の中で立ち尽くす自分自身に向かい 思わず同情の言葉を掛けると、とても可笑しそうに声を上げて笑った。
余らせてしまった時間をどうしようかと少し迷う様相を見せた真理江であったが、この部屋に留まることを想像すると何故だか息苦しくなった。
「よくない、よくない!」
そんな独り言を呪文のように繰り返した真理江は、ソファーに置かれていたバッグを取り上げると、その閉塞感から逃げ出すように速い足取りで自宅マンションを後にした。