ベイビーベイビーベイビー
午後3時。
見上げた空は、まだまだ不安定さを残している。
それでも薄く延びていく雲には、どこか夕暮れの近いことを感じさせる雰囲気が抱かれていた。
「夕焼けに染まると、人って泣き出しそうに見えますね――、か……」
一昨日横浜の港から夕日を眺めたとき、中瀬が真理江に掛けた言葉をなぞるように呟く。
そうして最寄りの駅へと歩き始めた真理江であったが、このセンチメンタルな空気にため息を一つつくと、突然歩みの向きを変えた。
真理江が進み始めたのは、真理江が今まで何度となく、祥吾の部屋の様子を探る為だけに通った道であった。
祥吾と連絡がとれなくなってからも、そうなる前も、不安なとき、寂しい時、まるで祥吾の近況を推し量るように、真理江は時々こうして遠くから祥吾の部屋の様子を見ていた。
とはいえ先週以降祥吾の部屋は、夜も電灯が着けられることはなかった。
祥吾がその部屋にいないことは、もう明白な事実であった。