ベイビーベイビーベイビー
 

 今、真理江にあるのは、絶望の哀しみ、などという感情ではなかった。

 真理江の心の中は、ずっと抑えてきた悔しさやら怒りやらの感情がぐるぐるととぐろを巻いていた。

 そして次第に早まる鼓動が、真理江の体温をどんどん上昇させるような感覚に捉われる。


「私、裏切られたんだ――」

 病に冒されたという祥吾の看病をしているのは、彼の家族などではなく、彼の妻。

 そう、自分は選ばれなかったのだ。


 あるいは、この数年の愛情溢れると信じていた日々は、自分の思い上がりであったのか?

 だから祥吾は、自分が祥吾に固執する事を拒み、「君は自由だ」などと言っていたのだろうか?

 真理江は自分の危うい立場の成れの果てを、改めて思い知らされた。


 そして、

「どうして私が隠れなくちゃいけないのよ――…」

それは懸命に生きてきた真理江にとって、到底受け入れられない屈辱的なものでもあった。



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