ベイビーベイビーベイビー
と、そこへ。
「失礼しまーす」
興奮している二人の熱を冷ますように、随分のんびりした様子のウェイターがワゴンを引き、料理を運んできた。
綺麗にテーブルセットされた食器を挟み、テーブルの真ん中に顔を寄せ合うように熱くなっていた二人であったが、思わぬ侵入を受けて、反射的に平静を装い、さっと背もたれに身を引いた。
そしてウェイターが丁寧に料理を列べるのを無言で見つめた。
こんな状況を知らないウェイターであるから、ボソボソと小さな声で、二人にとっては「今そんなことはどうでもいいよ」というな料理の紹介など、覚えたての台詞を悠長に続ける。
気の短い冴子が苛々としているのが手に取るように分かるのだけれど、ダイニングバーと銘打ちながらも、料理にもかなりの自信を持っているこの店を選んだのは冴子たち自身。
と言うより、そもそもウェイターは与えられた仕事を遂行しているだけなのだから、「あなた、ちょっとは空気を読みなさいよ」と言うのもおかしな話であって――。
その結果、わざとらしいくらいの笑顔を浮かべた冴子は、その一語一語に被せるくらいの勢いで「はいはい」と合いの手を挟み、そのウェイターの講釈を急かすのだった。