ベイビーベイビーベイビー
しかし反ってその一時がよかったのか、そのウェイターが去る頃には、
「あぁ…。この白身魚の説明の下りとか、なーんにも頭に入って来なかったわ」
と言いつつも、冴子は先ほどよりも幾分落ち着きを取り戻していた。
それどころか、その手持ちぶさたで間抜けな時間を振り返ると、思わず二人で笑ってしまうのだった。
冴子は早速運ばれたばかりのサラダやパスタを手際よく取り分け始めた。
そして
「話に戻るけどね」
と前置きをしてから、
「私、そういう恋ってした事がないから分からないけれど、人と人との別れってそんなものなのかしら?
不倫にもいろいろ事情だってあるのだろうけど…。
だけどそんなに薄情になれることに、一抹の恐ろしさを感じるわ。
はい、どうぞ。たくさん食べなさいよ」
と言い、真理江に皿を差し出した。