ベイビーベイビーベイビー
「――…ごめん、お父さん」
大粒の涙を祥吾のスウェットの袖口で拭いながら、綾乃はまるで小さな子どものように父親に謝った。
思いがけず娘からそのような言葉を聞いた父親は、綾乃の小さな身体が震えているのを、愛情の眼差しで眺めた。
両親にしてみれば、綾乃がこんな風にして謝る事に、何だか懐かしさを覚えた。
遠い昔、姉妹喧嘩を叱った時も、綾乃という子どもはこんな風に泣きながら謝っていたから。
こんなはずじゃなかったんだよ。
こんなはずじゃ――。
「お前が謝る必要なんてない。
この件はお父さんたちに任せておきなさい」
幼かった頃と同様の姿で泣きじゃくる綾乃に向かって掛けられた父親の言葉は、父性という名の慈愛に溢れ、そしてとても強かった。