ベイビーベイビーベイビー
もはやここに留まる事にさえ嫌悪の情が生まれ始めた綾乃の両親は、忌々しげに立ち上がると、祥吾のマンションを後にする事にした。
「もう、いいな?」
という父親からの問い掛けにも、綾乃は大人しく、
「うん」
と頷く。
綾乃の脱ぎ捨てた喪服は綾乃の母親によっていつの間にか綺麗に片付けられ、荷物を纏めた綾乃たちは、この部屋との決別を決めた。
後の事は任せなさい――
父親の運転する車の後部座席で、綾乃は心の中で先程の父親の言葉を繰り返した。
「だからもう、死ぬなんて考えるな」
綾乃は自分を守ってくれている存在を、今更に理解した。
ありがとう――…
綾乃の強ばった感情のもつれがスルスルと解れる程に、綾乃の身体に、えもいわれぬ疲労が溢れ出した。
ベッドに横たわった綾乃の意識は、数分と続かなかった。
そこには安らかな少女の寝息があるばかりであった。
~『揺れるベイビーたち』綾乃~