ベイビーベイビーベイビー
「これからどうするの?」
佐竹に問われた冴子は、
「今日は家に泊めようと思ってるんです。
タクシーさえ拾えれば、後はなんとかなると思いますから」
努めて平静を装うと笑顔でそう答えた。
佐竹に余裕を見せたかった。
ただそれだけの笑顔だった。
その時、冴子の目に、空車を示す一台のタクシーが、直前の交差点で信号待ちをしているのが見えた。
冴子は真理江を佐竹に託したまま、小走りで車道に身を乗り出すと、信号が青に変わり次第走り来るであろうタクシーに向かい、両手を降って合図を送った。
タクシーのドライバーが右手を軽く上げ「了解」の合図を返す。
やがて信号が変わり車を発進させたタクシーは、冴子との約束を守るように、ハザードを点滅させながら、ゆっくりと三人のところで止まった。