ベイビーベイビーベイビー
 

 乗車以来言葉を発しなかったドライバーが、

「お客さん、この辺りでよかったです?」

ミラー越しに冴子に尋ねた。

 それにハッとした冴子は、

「あ!はい、あの交差点を過ぎたあたりで止めて下さい。
 そこで私たちだけ降りますので」

と目の覚めるような声で答えた。


 冴子がここまでの料金を精算すべく財布を取り出していると、タクシーは冴子に指示された場所で停止した。


 タクシーが止まると、佐竹はすかさず、

「運転手さん、少し手を貸してきますから、ちょっとだけここで待っててもらえますか?」

と言うが早いか、ドライバーの返事を待たずタクシーから先に降り、先ほどと同じように再び真理江を抱え揚げた。

 取り残された冴子が、支払いをすべく財布を広げるけれど、

「安藤さん、支払いは俺がしておくから、とりあえず何階?」

と佐竹は冴子の部屋の階数を尋ねながら、既にエントランスへと歩き始めてた。

 どうやら佐竹は冴子の部屋まで真理江を運ぼうとしているようであった。


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