ベイビーベイビーベイビー
「おいおい、なんだよ」
真理江と中瀬の親しげな様子に驚くと同時に、二人が楽しげに会話を交わしているのを、彰人は遠くから苦々しく見た。
何よりも、先程自分の前を通り過ぎた真理江が、中瀬の所では立ち止まり、笑っているのが気に入らなかった。
「俺の事は無視しておいて、あんな若い奴に媚を売るなんて何だよ!」
彰人は真理江に対して、何故か無性に腹が立った。
忌々しい気持ちでその様子を見ていると、程なくして中瀬が真理江に何かを知らせるように、フロアの隅に設けられた商談スペースの方に向けて真っ直ぐに指を指し示した。
すると真理江はその指の先にある何かを確認したようで、少し緊張感のある面持ちに表情を変えた。
そして中瀬に軽く手を上げると、その指の指された方へと小走りでと進んで行った。
「あ――…」
その指の指し示した先を見た彰人は、思わず声を上げた。
「佐竹さん!」
真理江が佐竹を呼ぶ声は、彰人の耳にも届いた。