ベイビーベイビーベイビー
“お母さん”という言葉に、思わず真理江も笑顔を浮かべた。
「いいお母さん――…私もそう思います。
それって、もしかしたら究極の誉め言葉ですよね?」
真理江は確かめるように佐竹に聞いた。
「そうか、そうだな。確かにそうだ」
佐竹は不意をつかれ、なるほどと頷いた。
――…と、落ち着きを取り戻した真理江が、何やら思い出したように周りを気にし始めた。
そもそも、この二人というのはそれぞれに居ても目立つ存在である。
何の理由があるのか、その二人がフロアの片隅で親しげに話をしているのであるから、周りはこの二人の様子を気にせずには居られないようであった。
「お仕事のお邪魔しちゃってすみません。
本当にありがとうございました」
真理江は佐竹に対して再び丁寧に頭を下げた。
それに対して佐竹も、
「いやいや、眠い目が覚めたよ。
安藤さんにもよろしくね!」
と明るく答えた。
真理江は最後にもう一度笑顔を浮かべると、真理江に投げかけられている不特定多数からの視線を跳ね返すかの様な凛とした立ち振舞いで、颯爽と風を纏いながら、足早にフロアから姿を消した。
その不特定多数の視線の中にいる小島彰人の姿もあったのであるが、それに佐竹が気付く事はなかった。
また、真理江も気に止めてはいないようであった。
~『ベイビーたちの日常、再び』佐竹~