ベイビーベイビーベイビー
程なくして自社ビルに着いた真理江は、バッグから社員証を取り出して首に提げると、山手線のホームさながらに混雑するエレベーターホールに現れる順番待ちの長い列に続いた。
8基あるエレベーターはフル稼動で社員たちを運び続けるが、それでも尚、待ち人の行列は延びる一方であった。
これが毎朝の事であるから、どの社員も一様にうんざりとした顔を浮かべている。
同じように無表情でこの列に続いていた真理江であったが、
「あ、小林さん!おはようございます!」
不意に彼女の名を呼ぶ者が後方から現れた。
聞き覚えのある声に真理江は恐る恐る振り返ると、案の定、そこに知った男の顔があり、何とも嬉しそうにニヤけていた。
ああ……私ったら、朝から本当についてないわ――。
顔が歪みそうになるのを必死で我慢し
「あ、小島さん、おはようございます」
明るく笑顔で返したのだが、真理江はこの小島彰人という人物が、大変に苦手であった。
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