ベイビーベイビーベイビー
それは今から10年程も前の話である。
八十八歳という高齢もたたり、床に伏しがちであった姉の旦那の祖母は、姉夫婦の結婚式に出席した数日後、眠るように生涯を閉じた。
最期まで孫の晴れ姿に嬉しそうだった祖母は、なんとも安らかな顔をしていた。
こういう穏やかな死もあるのだと、皆が羨むほどの最期であった。
「節目節目の意味を知るのも面白いものよ。
勿論亡くなった人の弔いではあるけれど、そうやって節目を迎えながら、遺された者も心の整理をつけていくんだと思うわ」
当時は必死で分からなかったけれど、今ならそれが分かる姉は、出来ることならそれを綾乃にも伝えたかった。
しかし、綾乃とは、事情が違いすぎた。
「そんな風に思えるなんて、お姉ちゃんが羨ましいわ。
私は私の夫の事なのに、何も知らずにいても構わない人間なの。
もう誰も私を妻だとは思っていないんだから」
四十九日を過ぎ、相続の事が一段落ついたら、綾乃と祥吾の離縁が決まっている。
だからであろうか、あれ以来古澤の家から連絡が入ることは数える程しかなかった。
それどころか相続についても雇われた弁護士から連絡があるばかりで、綾乃の心はますます疑心暗鬼になっていた。