ベイビーベイビーベイビー
小さな地方の信用金庫である勤務先では、吉田不動産と藤堂との良好な関係を大歓迎している。
そんなこともあって、藤堂がいつも正直に「吉田不動産の社長から呼ばれている」という旨を上司に伝えるだけで、定時を少し過ぎたころには藤堂を易々と解放した。
吉田不動産を訪問するといっても、藤堂はまるで実家に帰ったようなひと時を過ごしているのであるが、それにも関わらず、そういった個人的とも思える付き合いをこんなにも許容してくれるということは、吉田不動産が藤堂の勤務先にとって、いかにお得意様であるかを思い知らされた。
普通のサラリーマンである自分が、縁あって伊豆への赴任が決まり、偶然にも吉田不動産の担当になって、たまたま大学時代にやっていたゴルフの事で社長と話が合って、自分がいい歳でありながらも独身であることを過分に気に掛けてくれている。
「身の丈に合わない付き合いをさせてもらっているのかもしれないな」
吉田家の食卓を立ち一人になると、藤堂はそんなことを考えて、再び深いため息をついた。
そして麻美のことも、一人の女性として考えるよりは、あくまで得意先のお嬢様としてそれなりの距離感を持って接するように心がけるべきなのだとも、この夜にも改めて知らされた気がした。