ベイビーベイビーベイビー
いつも通り、夜八時を過ぎた頃には吉田の家を後にした藤堂は、そこから車で15分くらいのところにある自宅アパートに真っ直ぐ帰った。
明かりをつけられ表情が浮かび上がるその部屋は、住み始めて三年目になる。
藤堂の選択の余地などなく、会社が用意したこのアパートにも、すっかり生活感が溢れ、今の主を温かく迎え入れた。
俄かに訪れた初夏のような暑さも、夕暮れを迎えるころには穏やかになった。
藤堂はこの日締めていたやや湿気を帯びたネクタイを外すと、窓際のスツールに無造作に引っ掛けた。
そしてワイシャツを脱ぎ捨てジャージに着替えると、真っ直ぐに冷蔵庫の扉を開き、冷えた缶ビールを取り出した。
藤堂はつまみを物色することもなく、ソファーに深く腰をかけると、勢いよくプロトップを開き口をつけた。
これもいつもの事であるが、藤堂は美味い料理をご馳走になりながら、車であるため一人酒を飲むことができない。
だから家に戻り、こうしてビールを一本空けることで、藤堂はやっと食事が終了したような気がした。