ベイビーベイビーベイビー
祥吾と生活していたのは僅か1年。
その間綾乃が使っていた部屋は、両親によって手が加えられる事はなかった。
そのため思いがけず家に舞い戻った綾乃であったが、再び慣れたその部屋を占有する事ができた。
敷かれたフローリングは濃茶色が鈍く光り、真白だった壁紙は黄ばみが目立つ。
また北東の角に置かれた木目調のチェストの上をみれば、後部が大きく迫り出した年代物のブラウン管テレビが置かれ、その存在感を示している。
かつては姉と共有し、青春時代を過ごしたこの6畳の部屋は、変わりゆく景色を尻目に、何一つ変わらない。
この場所は綾乃を童心に帰らせ、母に抱かれるような安心感を綾乃に与えた。
これと言って趣味も特技もなく、おまけに「人と関る」という事が大の苦手であった綾乃は、祥吾と別々に暮らすようになってからというもの、一日の殆どをこの部屋で過ごした。