堕天使の涙
嘘
「一つ…嘘ついてたんだ。」
急に沈黙を破り、青年は話し出す。
「宝くじ…嘘なんだ。」
何だ?
何が言いたい?
「おじさんは…五千万円…何に使うの?」
直ぐに答える事が出来ない私を彼は真っ直ぐに見据えた。
わざわざ本当の事を話す必要も無いが…。
私を真正面から覗き込んだその眼差しの真剣さと言えばこれまでの彼のイメージを全て覆す程のもので、私は嘘をつく事が出来なかった。
「…息子が…病気なんだ…。手術が必要で…。」
ちらりと横目で見た彼の表情が微妙に変化したように見えた。
一度足元へ視線を落とした後、再び顔を上げると彼は話し始めた。
「五千万円、保険金なんだ。母さんが死んだから…。」
母親…?
何故今更そんな話を?
「母さんは…女手一つで僕を育ててくれた。」
胸騒ぎがする…。
何か嫌な感じが…。
何故だろう…?
「親父さんは…?」
つい、心に浮かんだ疑問をぶつけると、彼は寂しそうに笑った。
「犯罪を犯して刑務所にずっと入ってたよ。」
冷たい汗が背中を伝い、胸が高鳴る…。
彼は私に背を向けるとおもむろにフェンスをよじ登り始めた。
そしてそのまま向こう側へ降り、ゆっくりと歩き出す。
私も自然と彼をフェンス越しに追った。ビルは確か五、六階建てだったはずだ。
足を滑らせ転落すれば命を失う高さだろう。
しかし彼は全く足元を見ずに淡々と歩を進める…。
「父親の後始末に母親は追われて、精神的にも肉体的にも疲れ切っていたんだ。」
足を止める事なく彼は話し続ける。
「何度病院へ行くように言っても彼女は聞こうとしなかった…。僕が病院へ入退院を繰り返したから、お金に余裕なんて無かったんだろうね。生命保険の掛金も少ない収入から僕の為にと払い続けてたし…。」
入退院…。
この男、体が悪いのか…?
「…大きな病気を患ってて…もうすぐ死ぬんだ、僕。」
振り向き私に見せた笑顔とは掛け離れた、重い言葉を彼はぽつりと漏らした。
急に沈黙を破り、青年は話し出す。
「宝くじ…嘘なんだ。」
何だ?
何が言いたい?
「おじさんは…五千万円…何に使うの?」
直ぐに答える事が出来ない私を彼は真っ直ぐに見据えた。
わざわざ本当の事を話す必要も無いが…。
私を真正面から覗き込んだその眼差しの真剣さと言えばこれまでの彼のイメージを全て覆す程のもので、私は嘘をつく事が出来なかった。
「…息子が…病気なんだ…。手術が必要で…。」
ちらりと横目で見た彼の表情が微妙に変化したように見えた。
一度足元へ視線を落とした後、再び顔を上げると彼は話し始めた。
「五千万円、保険金なんだ。母さんが死んだから…。」
母親…?
何故今更そんな話を?
「母さんは…女手一つで僕を育ててくれた。」
胸騒ぎがする…。
何か嫌な感じが…。
何故だろう…?
「親父さんは…?」
つい、心に浮かんだ疑問をぶつけると、彼は寂しそうに笑った。
「犯罪を犯して刑務所にずっと入ってたよ。」
冷たい汗が背中を伝い、胸が高鳴る…。
彼は私に背を向けるとおもむろにフェンスをよじ登り始めた。
そしてそのまま向こう側へ降り、ゆっくりと歩き出す。
私も自然と彼をフェンス越しに追った。ビルは確か五、六階建てだったはずだ。
足を滑らせ転落すれば命を失う高さだろう。
しかし彼は全く足元を見ずに淡々と歩を進める…。
「父親の後始末に母親は追われて、精神的にも肉体的にも疲れ切っていたんだ。」
足を止める事なく彼は話し続ける。
「何度病院へ行くように言っても彼女は聞こうとしなかった…。僕が病院へ入退院を繰り返したから、お金に余裕なんて無かったんだろうね。生命保険の掛金も少ない収入から僕の為にと払い続けてたし…。」
入退院…。
この男、体が悪いのか…?
「…大きな病気を患ってて…もうすぐ死ぬんだ、僕。」
振り向き私に見せた笑顔とは掛け離れた、重い言葉を彼はぽつりと漏らした。