堕天使の涙

「宝くじ当てたんだよ。一億円。」

不意に彼は私の頭にあった問い掛けに答えた。

何故この男はそんな大金を…。

宝くじ?

何とも信じ難い話ではあるが、成る程と思えない事も無い。

現に今私の目の前にある鞄には大量の札束が。

それはまるで私の日常を嘲笑うかのような光景であった…。

これだけの金があれば…。

ひょっとして…まだ…間に合うのでは無いだろうか…?

私はまだ彼を助ける事が出来るのではないだろうか。

少し陽の傾いた公園。彼に買い与えられたサンドイッチを勢い良く貪る私を尻目に彼は更に話を続ける。

「一億円もあれば、半分の五千万円は面白い事に使いたいなあと思ってね。」

面白い事…?

五千万円を使って…?

理解に苦しむ発言ばかりだが少しづつ話が見えて来た。

「お金に困った人は大金の為に人殺し位するのかなとふと疑問に思ってね 。」

彼は依然爽やかな笑顔を絶やす事無く恐ろしい話をする。。こんな事は常識として許されない…。

とは言え、私の生活はとうに常識というものから掛け離れてしまっている為、何
とも不思議な感覚だった。

しかし、私はこの男に対し、真正面から常識という概念をぶつける事が出来ず、ただ黙って聞いていた…。

「たまたまおじさんを見かけて、ひょっとしてやってくれないかなと声を掛けてみたん
だよ。」

たまたま…。

私はたまたまこの男にいかにも金で人殺しをしそうな人間だと選ばれたという事か。

もちろんこの男が私の過去を知るはずは無い…。

結果的にではあるが金の為に人殺しを犯した私の過去を…。
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