飛翔-KODOU-
部屋を出ていこうとする利芳の背中に、そう小さく吐き捨ててやった。

『…兄ちゃん』

聞こえていたらしく、利芳は振り返った。

『何…面倒くせぇな、聞こえたんかい』

『私、そんなに父ちゃんに似とる??』

意外な質問だった。

『似とるわい。俺の嫌いな父ちゃんに、お前はそっくりじゃ』

『…そっか』

呆気ない答えに、心底腹が立った。

『だからお前見てても腹が立つんじゃ!!!父ちゃんに可愛がられて育ってきたお前と違って俺は…』

そこまで言って気が付いた。俺は立ち上がっていて、右腕は利芳の胸倉を掴んでいた。

『兄ちゃん』

利芳がまた俺を呼んでこう言った。

『兄ちゃんの言いたい事分かっとるよ。』

『…はぁ??』

力の抜けた声と疑問詞が俺の喉から出てきた。

『ごめん、父ちゃんに似とって』

小さな声で利芳は呟いて、俺の右腕を解いて部屋を出て行った。



『帰ったぞ』

玄関から、父ちゃんの声が聞こえた。'おかえり'と返す利芳の声も聞こえた。父ちゃんの声に答えを返さないのは、この下らない三人家族の中で俺だけだ。時計を見たら、23時を回っている。

『クソ親父…またパチンコか』

父ちゃんに俺から返す言葉と言えば、憎しみの言葉だけ。
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