飛翔-KODOU-
『そっか』

利芳が少し寂しそうな顔をしたが、父ちゃんと同じ食卓なんか囲みたくもない。

『どこ行くんや』

父ちゃんの問い掛ける声が聞こえた。

『うるせぇ』

一言残して家をでて、単車にまたがった。どこに誰と何をしに行くなんか、父ちゃんに話したくない。昔からそうだった。父ちゃんがどこかに出ていく時、俺も利芳も行き先や何時に帰ってくるのかをいつも聞いた。それに対して父ちゃんが、返事をくれた事なんかなく…帰ってこないこともしばしばだった。利芳には別に教えていたみたいだが、俺は聞いた事なんかない。小学生の頃、利芳は父ちゃん方の祖父や祖母と旅行に行って、父ちゃんは帰ってこなくて俺1人だけで…死ぬほど心細い夜を過ごした事もある。飯も1人じゃ作れない、風呂の入れ方も分からない。見た事のない母ちゃんを思って、'母ちゃん、母ちゃん'と一晩泣き明かした。

昔の事を思い返しながら走っていたら、いつの間にか待ち合わせ場所に着いていて、威風の単車ともう一台単車が止まっているのを見つけた。威風はコンビニの中で立ち読みをしていた。

『悪い、待たせた』

威風の肩を叩くと威風はいつも通りの渋い笑顔を浮かべて俺を外に連れ出した。
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