Drop Piece
返答がないあいつに、通話終了ボタンを押そうとしたら突拍子もないことを言いやがった。
『……シャワーの…音、…聞いてたいから切らないで』
「は?」
『いちるが…シャワー浴びてるとき、…電話切らないで』
理解不能すぎて一瞬、言葉を失った。
「変態か、お前」
どこに人のシャワー浴びてる時の音聞きたがる女優がいんだよ。
『ちがう…、人が生活してる音を聞いて…起きたいの』
「意味、わかんね」
『ね、……切らないで』
寝惚けて言ってるのか、本気で言ってるのかわかんねぇしな。
「めんどくせぇから、このままにしとくけど切りたきゃ勝手にそっちが切れ」
そう言い、バスルームへと入り、熱いお湯を全身に浴びる。
でも、なんだか落ち着かず、早々に切り上げる。
『はや…いね』
「おめーのせいだ」
やっぱ寝惚けてんのかよ。
キッチンに行き、沸かしてたコーヒーをカップへ注ぐ。
『コポコポ…コーヒー?』
「ん」
『で、次はカップを出した音。次は……これ、なんだろ。あ、キーをぽっけに入れた音だ!』
無駄にはしゃぐ馬鹿に違和感を持った。
『やっぱり、いいなぁ。朝、人の生活の音で目覚めるの』