Drop Piece



連れていかれた店に着くと、直ぐ様VIPルームに通された。


……逃げ道が、ねぇ。


「くつろいでね」


じゃぁ、即刻、家に帰せ。


そんな俺の望みも露知らず、秋山のおっさんがリモコンをピピッと操作すると天井から降りてきたスクリーン。


ここ、レストランじゃねえのかよ。


「よし、メニュー見ようか」

「はぁ」




そのあと普通に料理が来て、今後の話をして、ついでに芝居の話もちらほらとすると、既に時間は9時2分前。



「5、4、3…」

確か、最初に流れるのは馬鹿の屋上のシーン。


「2」

あの、涙のシーンだ

「1」


俺が初めて見たあいつの演技。



「0」



スクリーンの映像が変わって、空が映される。



駄目だ、あいつの演技を見てしまったら………脱け出せなくなる。


きっと、お前から。



「………っ」



目が離せなくなる。



だって。



「ああ、本当に綺麗に泣く女優さんだ」



あんなに、あれ以上に綺麗に泣く女など見たことがない。




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