僕は先生を愛してます
僕の足は迷う。
頭ではダメだとわかっていながら、心がそれを邪魔する。
あと数歩のところで先生が待っている。
逢いたい・・。
僕は負けた。
教師と生徒という関係なら話すことは許されている。
僕はそれを利用した。
自然と教室のドアに手をかけていた。
いつもなら「先生」と呼ぶが、今日は違う。
「幸村君?」
先生が僕を呼んだ。
「なにか用事ですか?」
教師と生徒。
その立場を保つために、生徒を演じた。
「学校は来ているみたいなのに、なぜ数学の授業は来ないの?」
先生は机に広げた本を閉じながら言う。
「どうしてでしょう?」
「真剣に答えなさい」
少し間が空いた。
「あなたを見ているとつらくなるからですよ」
「そんなの欠席の理由にならないわ」
・・あ~だめだ。
逢うんじゃなかった。
「俺・・もう先生には逢いません」
そう伝えた。
「先生の事は諦めます」
こう言わないと僕自身の気持ちに勝てない。
「だから・・逢いません」
僕はそれだけ話すと先生を見ずに背を向けた。
「幸村君っ―・・」
先生の声が響く。
だけど僕は振り返らない。
今振り返ったら、先生を諦められない。
頬をゆっくりと伝う涙の意味を僕は静かに受け止めた。