お嬢様の執事様
涙は不思議と出てこなかったけど、胸が熱くなった。

吸っては体に巡る酸素は、熱になって全身に巡っていく。

優しい彼の言葉、陽の光、空気。すべてが私の心で熱になって燻っていく。

もどかしい。
この想いの名前が分からなくて、すごくすごくもどかしい。

でも、伝えなきゃ。
言葉にしなくちゃ伝わらないから。

「か…きもと、さん……」

「はい。なんでしょうか、お嬢様」

燕尾服のジャケットを掴んだ手が、声が震える。

それでも、

「あ、ありが…とう、ございます……」

彼に、そう伝えたかった。

彼はびっくりしたように目を見開いたが、すぐに目を細めて嬉しそうに笑った。

「私こそ、ありがとうございます」

そして、私が燕尾服から手を離すと、彼は腰を少し折り曲げて礼をする。

「これから、よろしくお願い致します。優姫お嬢様」

そして紅茶色の執事様は、また私に笑ってくれた。

「はい、よろしくお願いします」

私の執事様。

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