お嬢様の執事様
「お嬢様、どうかなさいましたか?キッチンに何かご用でも?」

「クッキーを、櫻井さんと一緒に作っていたんです」

優しく笑う垣元さんにそう伝えると、垣元さんはきょとんと目を丸くし、「クッキー…ですか?」と呟いた。

「あ、手作りとか迷惑でしたか?」

「いえ…むしろ嬉しいですが……あ、もしかして私にもいただけるんですか?」

「えと、元々垣元さんと宵波と一緒にお茶をしようと思って作ったんですが…」

やっぱり迷惑だっただろうか。
私は不安になり、おずおずと背の高い彼を見上げた。

すると彼は柔らかに顔を崩し、「嬉しいです」と綺麗な歌を紡ぐように呟いた。
その笑みは見惚れるくらいに綺麗で、私はときりと胸が鳴ったのを感じた。

「あ、でもどこか外にお出かけされるときは、誰かに行き先を告げてからお出かけなさってくださいね。心配になりますから」

垣元さんが形のいい眉を下げて困ったように笑う。
私は少しの罪悪感を胸に留めながら、「ごめんなさーい」と小さく笑った。


心配してもらうなんて、いつぶりだっただろう。少なくともお姉ちゃんが亡くなってからはなかった。


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