冬物語
すぐに順番が回ってくる。
「…っ」
緊張してきた。
中学校のときみたいに黙ってないで、ちゃんと隠さないで言わないと。
「何、緊張しとるん?」
前から声が聞こえて、俯いた顔を上げると、右にある壁に背中を預けてあたしに話しかけてきたのはハルと呼ばれていた子。
「…」
あたしは素直に頷く。
「平気やって。すぐ終わるわ。」
ニカッと笑う顔はほんとに綺麗。
「…」
あたしはその笑顔に微笑み返した。
「…っ、なんやし!」
「…?」
前に向き直してしまった。
「じゃあ次矢野さん。前来てくれる?」
三宅先生に呼ばれて、あたしはギッと椅子を引いて教卓に向かって歩く。
「は?なんで前行くんや?」
「…」
あたしはその質問に微笑み、歩き続ける。
みんなが驚くのも無理はない。
今までの三人はその場に立って自己紹介していたのに、なぜあの子だけ?と思っているんだと思う。
それか、転校生だからかな?
「名前黒板に書いてくれる?」
三宅先生には、お母さんが前々から学校に電話してくれていたから、多分この学校の先生全員が知っていると思う。
【矢野綺魅】
そう黒板へ書いた。
「矢野綺魅さんです。転校生でもあり、ある事情でこの子の代わりに先生が話します。」
その言葉に、クラス内はざわざわとしだした。
「…」
その雰囲気はあたしに恐怖を与えた。