冬物語

「2週間前にこっちに引っ越してきたばっかりやから、わからないことが多いと思うでみんな矢野さんに協力したってな。」



三宅先生がそう言うと、みんな目を見開く。



あたしはチョークを持って黒板に向かう。


【声出ないから迷惑たくさんかけちゃうと思いますが よろしくお願いします】



チョークを置いて、前に向きなおして教室を見渡してから深くお辞儀した。




教室は静まり、やっぱり駄目かなって不安になって視界が緩んだ。




「こっちこそよろしくー!」


「!」


バッと前を見ると、さっき隣に座っていた唯子という子がキラキラした笑顔で言った。



「なんでも協力するでー!」


「さっき言ってくれたらよかったのにー」


「…っ」


住んでるところが違うだけでこんなに違うの?

前の学校でも打ち明けてたら何か変わっていたのかな…。






席に戻ると、


「さっきはごめんな。全然知らんくて質問攻めみたいなことしてまったよな…。」


唯子が申し訳なさそうに謝ってきた。


あたしは急いで首を横に振って否定した。


鞄からノートを取り出し、



【話しかけてくれてすごくうれしかった ありがとう】



そう書いて唯子に見せて笑った。




「なあ、キミって呼んでもええ?」



「!」


あたしは頷いた。

「うちのことは、ユイって呼んでな!」

やっぱりこの子は綺麗に笑う。



席に座ると、

「知らんくてすまん。」


ハルという人も謝ってくる。



なんでこの人も謝ってくるんだろう。



「朝、何組なんか答えやんだんは、答えれやんかったからなんやろ?」


あ、そのこと…



「それのせいで思いつめたりせんだか?」


あたしは頷く。




この人は相手の気持ちを誰よりも気にする人なんだなって思った。


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