冬物語
伝える手段はいっぱいある。
最低限、相槌でなんとかなると覚えたあたしは、声が出るようになるようには生活していなかった。
「・・・」
お父さんは帰ってきたとき、とても寂しそうな瞳であたしを見た。
【どうしたら声を出してくれるんだ?】
【なんで口さえも動かさないんだ?】
きっと思っているはずなのに、お父さんはあたしに聞いてこない。
お母さんも、お兄ちゃんも。
もしかしたら、お兄ちゃんの場合、出したくないんだったら出さなくてもいい。
あたしにとって、一番楽な考え方の持ち主なのかもしれない。
お母さんはあたしに気を遣ってか、声については何も言わない。
お父さんは、一週間 家にいた。
その一週間の間、お父さんは
一言もあたしに聞いてこなかった。
ただ、食卓を明るくしてくれて、短い間しかいられないその場所を暗い雰囲気にしたくなかったのかもしれない。
あたしにとっては、それはとても都合の良いことだった。