僕を殺してください

「正直に言う必要はありません。
気付かれていないのなら、そのまま放っておくのが一番。
それに、今まで真面目に働いていた母思いの貴方が、こんな事をするとは誰も思わないでしょう。」

とても神父とは思えない言葉に、ネイラは不安になった。
だが、その声色は誘うように甘く、心を揺さぶる。

「あなたのネガイは“お金が欲しい”でしょう?」

気が付くことなく、ネイラはその声に囚われていった。
蜜の香りに誘われ、朦朧とする意識の中で彼女はもう1人の自分と戦っていた。

誘いに乗ってはダメ。
でも神父様は、それでいいと言ってくれたの。
それに私のネガイを…
それは私の“願い”じゃないはず。
いいえ、私の“願い”よ!

「お金が欲しい…。」

ネイラは口から声を出して言った。
彼女の口元は笑っている。

「では、貴方の願いを叶えましょう。心から望めば、それは真実へと変わる。“ネガイ”は“願い”に。」

神父はそっと立ち上がり、ネイラの方へ歩き出した。
2人を遮っていた壁は意味を為さず、神父の体は易々と通り抜けた。
ネイラは驚きもせず、焦点の合わない瞳と歪んだ口元で、神父を迎える。

「さぁ、願いの代償…貴方の魂を頂きます!」




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