僕を殺してください
黒いローブを纏い、フードによって顔を隠した人。
只者ではないことは明らかだ。
アルムはそう考えるので精一杯だった。
「な…ぜ僕に…。」
なんとか落ち着いてきた呼吸と思考で、シェゾを仰ぎ見て問う。
下から見上げても、顔は口元しか見えない。
「お前を選んだのは平凡で心優しく、無垢だから。」
シェゾはアルムを見下ろし、少しだけ眉間にしわを寄せ、続けて話した。
「この世界はお前が生きている限り、破滅へと向かう。
だがお前が死ねば、浄化されて滅ぶことはない。
ただし、自分で死ぬことは許されない。リク王に殺してもらえ。ついでに詳しい話もあいつから聞くといい。」
アルムの目は見開かれ、そこには目の前の黒衣を纏う男が映っている。
シェゾの言葉が時間をかけて脳に染み込み、アルムの心を掻き回した。
「お前の罪ではない。リュークの罪なのだ。それを背負って死ぬか、そんな世界を捨て1人生き残るか。お前自身と、リク王とよく考え、話し合って決めろ。」
シェゾはそれを最後の言葉とし、アルムの前から姿を消した。
残酷だ。アルムはそう思った。
自分の決断など、考える前から決まっている。
ただ、自分で死ぬことができず、それを国王に頼まなければならない。
それが一番、アルムにとって悲しかった。
自分の死を、誰かに願うことが。
森に差し込む光はキラキラと輝いて、アルムを優しく包む。
そよ風に揺れ、囁く木の葉は語りかけてくるよう。
これがもし運命ならば、受け入れられただろうか。
自分が選ばれなかったら、他の人が同じことをされ、言われたかもしれない。
そう思ったら…恐くなった。
自分以外の人に、こんな思いをさせるのは嫌だ…。
そんな、取り留めのないことをアルムは考えていた。