僕を殺してください


男は小さな子供を家の中に入れた。
子供は恐る恐る家の中へ足を入れる。
暖かい暖炉の前に座らせられ、男は目の前であぐらをかく。

「さて、キールってのはな、教会に巣くう悪魔だ。そこからいつも悪いことを考える奴や心の弱った奴を探すんだ。そして見つけたらそいつに近づいて甘い言葉を囁く。」

日の灯りに照らされて男の顔が赤く揺れる。
小さな子供はつばを飲んだ。

「お前の望みを叶えてやろう。俺の仲間になればどんな事だって出来る。その代わり…」

ぐいーっと男の顔が近づいてきた。
そして低い、ドスの利いた声で言う。

「お前の魂と引き換えだ!!」

キールのものまねをするように、怪しい笑みをたたえて。
その顔と話の恐さに、震えながら涙を堪えている小さな子供。
それを見た男はがはは!と大きな声で笑った。

「悪いことばっか考えてると、お前もキールに魂取られちまうぞ?助けを呼んだって無駄だ。キールは狙われた奴にしか見えないからな。」

自信あり気にふんぞり返って言う男。
小さな子供は意地悪く笑う男に、あっかんべーをしながら家を飛び出した。

暗い帰り道がいつもより闇色に見え、より恐怖を引き出す。
風になびいて揺れる木々の影が、記憶に新しい男の顔を思わせる。
小さな子供は目をぎゅっと瞑り、家に向かって思い切り走った。
教会からキールが自分を見ている気がして。





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