僕を殺してください
「では、こちらでお待ちください。」
リニールに着いたアルムは、真っ直ぐに城へ赴き、謁見の間へ通された。
そこは相変わらず広くて、静かな空間だった。
赤い絨毯の縁に、大きく植物をかたどった象った刺繍がされている。
人がざっと300人は入れるスペースに、天井には美しい細工のシャンデリアが等間隔で設置されている。
アルムは緊張した面持ちで、リク王が現れるのを待った。
「リク王、アルム殿がお見えになりました。」
城内の奥にある執務室にて、いつものように仕事をしていたリク王に、大臣がノックをして部屋に入るとそう告げた。
「そうか…、分かった。」
リク王は悲しみに細く整えられた眉を下げ、眉間に皺を寄せた。
報告書や企画書、資料書などが山積みになっていて、扉の前に立つ大臣からはもはやリク王の姿は見えていなかった。
我がリク王は真面目で向上心が強く、勉強熱心なのは良いが、少しばかり整理整頓という意識が薄い模様…。
大臣はリク王が戴冠された時からの「リク王観察記録」にそう付け足した。
重い腰を椅子から持ち上げ、リク王は大臣のもとへ歩み寄る。
「大臣…、この格好のままでいいのだろうか…。」
リク王は不安気な顔で自分の姿を見下ろしていった。
柔らかいシルク素材の白いYシャツに紺のスラックス。
「陛下、お着替えになってください。」
大臣は左腕を腹の前に、腰を30度曲げて言った。
そこまで丁寧に言われると、聞いた自分が恥ずかしくなる。
「そ、そうだよな…。」
当たり前か、と呟いたリク王は自室へ向かおうと、大臣を連れて執務室を出た。
人のいなくなった部屋では、開かれた窓からの風が机の上に無造作に置かれた書類を花びらのように舞わせていた。