僕を殺してください

アルムが連れてこられたのは城の中庭だった。
中心には噴水が数秒毎に形を変え、美しい水の芸術を表している。
その周りを囲むように、見事な薔薇を咲かせた庭園が広がっている。
その美しさに見とれて歩くアルムの後ろを、リク王が歩いた。
その手には王にのみ継がれる剣を持ち、優しさと悲しみと恩恵の思いでアルムの後ろ姿を見ていた。

アルムはリク王の気遣いに感謝した。
こんなに綺麗な場所で、それも王の剣によって死ねるなんて。
もう十分だ。自分は幸せだ。きっとこんな場所で死ねる人は多くない。

「リク王、ありがとうございました。…お願いします。」

そう言って頭を下げて、上げて、アルムは目を閉じた。
リク王は何も言わずに剣を鞘から抜く。
柄に細かい細工と国の紋章が彫られた美しい剣。
そして心の中で祈った。
アルムがどうか天国へ無事に行けますように。
リク王はアルムの心臓を、両手で構えた剣で一気に貫いた。
大臣が教えてくれた。そうすれば苦しまずに死ねると。

剣を引き抜いた部分から血は吹き出る事はなく、代わりに光が放ち、それはアルムを包んで輝きを増していく。
強すぎる光に目を庇うリク王は、半歩よろめきながら後じさる。
そして光はアルムもろとも、パンッ!と弾けて飛び散った。
散った光は国中に飛び、さらに細かく砕けて光の雪となって降り注いだ。




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