僕を殺してください


「皆も知っていると思うが、この国にはキールという悪魔がいる。その悪魔は各街の教会に住み、人々の魂を呑む。そしてリュークは、その悪魔によって滅ぶ可能性がある。全ては人の欲望への弱さゆえ。これが王に伝わる伝承だ。」

神の話しはするべきではないだろう。
リク王はそう考えていた。
神は自分達を試している。
だが、それを知ることが最善だとは思えない。
悪魔を放つ神がいるなんて…、信じられるわけがない。
国内にどよめきが起こった。

「そしてリュークは己の欲望に負け、キールに魂を呑まれた人で満たされようとした。このままでは近いうちにリュークは滅ぶと、私は思った。リュークを救う方法が1つだけある。」

どよめきはさらに強くなり、不安がる人々が出始めた。
リリアは黙ってひたすらリク王を見つめた。
あなたの言葉を聞くために来たのだから。



「救う方法とは…選ばれた国民を1人、国王の手で殺めること。そしてその1人が、リープ街に住むアルム・サレンという青年だった。アルムはこの国や、愛する者のために自ら進んで死を願い出た…。私は、受け入れることが彼への1番の恩返しだと信じ、そして先程…彼の命を私の手と王剣にて絶った。彼の思いが光となって国中に広がり、リュークを浄化し、いくつもの奇跡を起こした…。」

光の正体が、リュークの犠牲となって死んだ者だった。
国民の感情が、悲しみで満たされる。

「皆…彼のために祈ってほしい。我々の、人の欲望の犠牲となってしまったアルムに、感謝と詫びと、そしてもう2度と彼のような者を出さないとの誓いを込めて…。」

リク王はそう言い終えて、腹の前で手を組み目を閉じた。
中央広場にいた人々もそれに倣って目を閉じる。
そして大臣が見えない国民に向かって、黙祷を告げた。
リュークはアルムへの祈りで、ひとつになった。
その祈りは神の元へと届く。


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