俺はキミの生徒
「じゃあ…そろそろ、帰るね。
加奈が心配するといけないし」
『加奈さんなら新とデート中だと思うけど』
そう言うと柚木ちゃんは帰る用意をする手を止めた。
「なら加奈が帰ってくるまでここにいてもいい?」
首を少し傾げ、俺を見つめる柚木ちゃん。
ほんと、そういうのやめて欲しい。
俺がこんなにもドキドキしてること、知らないんだろうな。
まったく罪深き教師だ。
『どうぞ。
その代わり俺、宿題やるから静かにしといて』
「いいよ。
あたしも仕事残ってるから」
俺はご飯を食べるときのテーブルで。
柚木ちゃんはリビングの低いテーブルで。
部屋は俺のシャーペンが動く音と
柚木ちゃんがキーボードを叩く音。
それと時計の針の音だけが響いていた。
なんだか不思議な気分だった。
こんな静寂には慣れているはずなのに
柚木ちゃんがいるからなのか落ち着かなくて。
いつもならはかどる勉強もなかなか進まない。
ダメだよなぁ…
柚木ちゃんに振り回されてちゃ。
なんて思いつつ、
俺はシャーペンを置き、
こちらに背中を向けている柚木ちゃんを見つめていた。
小さくて
触れたら壊してしまいそうな程に細い柚木ちゃん。
なぁ…柚木ちゃん。
ダメなのかなぁ。
俺が柚木ちゃんを守るからって、
そう、あなたに伝えるのはいけないことですか…?