パパ
アタシは気持ちが悪くなって、直ぐに家の中に入った。
最後に男が呟いた一言が、アタシの血の気を攫っていく。
ドクドクと鼓動が早く動き、ギュッと握った手の平は変な汗で湿っている。
玄関でしっかりと、自分を落ち着ける為に深呼吸をし、それまで履いていたパンプスを脱ぎ家に上がる。
「ただいま」と明るく言おうとしたアタシの声は、喉の奥で掻き消されてしまった。
ダイニングテーブルで、頭を抱え、俯いているママの背中には何も触れちゃいけないような気がしたから。
リビングに入らず、そのまま二階の自分の部屋に入ったアタシは、ドアの前に座り込んでしまった。
一度整えたはずの心臓はまた凄い早さで、動きはじめる。
ママのうなだれた姿を見ると、さっきの男の言葉が嘘ではないような気がして…
どうしようもない、不安に襲われて、体が勝手に震えてくる。
そんな、嘘だよね?
「俺には全然似てねぇな…」
男の言葉が、頭の中でリピートされる。