白銀の景色に、シルエット。
Letter to you.
『前略
お元気ですか?
なんて改まるのも不思議な気がします。少し照れ臭い気もします。
ですが、ペンを取らずにはいられませんでした。
この手紙が届くであろう今日は、逢おうと約束した日ですから。
忘れっぽい君が約束の日を覚えているか不安です。
でも、この手紙で思い出してくれましたね?
五年後の3月16日、私の誕生日に逢おうという約束。
私はこの日を心待ちにしていたんですよ。
あまり長々と書き連ねるのもなんですから、当日を楽しみにしています。
琵琶湖の畔で待っています。
不一
神田美也子』
よく晴れた土曜日の昼下がり。
美也子は琵琶湖の畔のベンチに腰を下ろしていた。
ぼーっと揺らぐ水面を見つめ、そっと目を閉じる。
もうすぐ約束の時間だ。
彼は来るだろうか。
高鳴る鼓動は、懐かしい青春の日々を思い出させる。
高校卒業から五年──。
あの頃は幼かったと、大人達が言うのを聞いては、何がどう幼かったのか見当もつかなかった。
その幼さ故に男女間の別れが成立する事が理解出来なかった。
しかし、23を迎えた今、その幼さがよく分かる。
好きだ好きだと毎日のように口にし、嫉妬し、些細な事で怒る。
本当に子どもだったなと、思わず苦笑した。
この琵琶湖は二人で毎日のように訪れていた場所だ。
互いの家から近いという事もあり、暇を持て余している際にはこの場所に来てお喋りをしていた。
別れる時に約束したのもこの場所だった。
別れる要因というのは特になかったが、あるとするなら、遠距離恋愛という段階に移る事でお互いを束縛する事が嫌だったからだ。
美也子も彼も、進路は違った。
美也子は地元の大学へ、彼は県外の専門学校への進学が決まっていた。
その事から、二人は別れを決断した。
美也子が大学を卒業し、落ち着く頃──五年後の3月16日に再会する事を約束して。
その間、お互い別の人と交際しようと構わない。
ただ、約束するだけ。