白銀の景色に、シルエット。
 そうして五年を過ごして来た美也子だったが、特に良縁に恵まれる事もなく、今に至る。

 何かを期待しているわけではないが、逢える事を楽しみにしている。


 来てくれるだろうか──。


 足許に目を落とすと、白いスニーカーが映った。

 ゆっくり顔を上げ、笑みを浮かべる。


「待ち合わせですか?」


 低くとも優しい声音で尋ねられ、美也子は「はい」と頷いた。


「長い事待っているんですか?」

「ええ、もう一時間近く待ち惚けです」


 男は笑い、隣に腰を下ろしていいか尋ねた。

 美也子はどうぞと左に寄った。

 ベンチに座った男の背丈は美也子より十センチほど高かった。


「どなたをお待ちに?」

「高校時代の恋人を」


 その答えを聞いた男は、ふわりと笑った。

 それからジャケットのポケットに手を入れ、缶珈琲を取り出して美也子に差し出した。

 まだ寒いですからねと言う男に、美也子は有り難く受け取らせてもらった。

 お気に入りのメーカーの無糖。ちょうど欲しいと思っていた。


「貴女が、弟の言っていた女性ですね」

「え?」

「弟が、待ち合わせに行けなくなったから代わりに渡してくれと、これを」


 缶珈琲を取り出したポケットとは逆のポケットから、小さな箱を取り出し、男は美也子に渡した。

 美也子は首を傾げながらも、それを受け取る。


「では、僕はこれで。散歩の途中なんです」

「そう、ですか。珈琲、ありがとうございました」

「では」

「あ、一つだけ! ……その、弟さんは何て?」

「プロポーズするつもりだったと。済みません、詳しい事は」

「……ありがとうございました」


 男は会釈し、去って行った。

 美也子はベンチに座り込む。肩を震わせ、鳴咽を漏らした。
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