白銀の景色に、シルエット。
「……どういう事だ、立野」


 俺はその言葉の真意を問う。

 一体何故、彼女は急にそんな事を言い出したのか。あまりにも突然すぎた。


「そのままの意味です」


 顔色を変えず、彼女は淡々と言い募る。


「貴方が来る度に、私は貴方に甘えてしまいます。このままではいけないんです」

「立野…」

「お願いします。私との全てを断ち切って下さい、速水さん」

「……甘えればいい。甘える事の何がいけないんだ? 記憶喪失になって不安な毎日を過ごしてるお前に、甘えるなって言う方が酷だろ」

「それがいけないんです!!」

「!」


 記憶喪失になり初めて怒鳴った彼女に、俺は驚きを隠せない。


「このまま記憶喪失のままだとして、甘やかされ続けたら、私はどうなります? 子どもじゃないんですよ? ダメな人間になって行くだけです!」


 ──日向、お前そんな事を考えていたのか?

 誰にも言えず、一人でそんな不安を抱え込んでいたのか?


 相変わらずダメだな、俺。恋人としても友達としても、お前には釣り合わない。

 ずっと傍にいて、そんな不安にも気づいてやれないなんて。


「貴方の人生は、貴方のものです! 私のものでは、ないんですよ…っ」


 鈍器で殴られたような衝撃が走った。


 俺は人生を彼女に捧げた。それは、彼女を苦しめていたのか。


「今日で終わりにして下さい、速水さん…っ」


 何も出来ないのか?

 俺に出来る事は、もうないのか?


「もう、こんな状態は嫌なんです…」


 泣きながら彼女は言った。


 俺は何も言えず、突っ立っている。涙を拭いてやる事も、謝る事も、彼女の要求を呑む事も出来ないままに。


「勝手な事ばかり、言って、ごめんなさい」

「謝らなくていい。日向が言っている事は間違ってない」

「速水さん…っ」

「言ってくれれば良かった。もっと早く言ってくれれば、お前は苦しまなかったろ?」

「そんな事…!!」

「帰ろう。お前の言う通りにしてやる。それがお前の為になるなら、俺は何でもする」


 ぽん、と頭を撫でてから俺は先を歩き出す。石段の階段を下りる。
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