白銀の景色に、シルエット。
人魚姫





 人魚姫の話を初めて聞いた時、人魚姫は馬鹿だと思った。

 自分の大切な家族と美しい声を失ってまで、好きになった王子の為に人間になるだなんて。全てを捨てて愛を貫くなんて。

 声まで失って、もう自分の想いなんて告げられないのに、ただ傍にいるだけなんて信じられない。


 王子を振り向かせられなかったら泡になる。

 それを心配した姉達は自分の美しい髪と引き換えにナイフを用意して、これで王子を殺せば助かると必死に訴えたのに。


 人魚姫は王子を殺さなかった。


 そして最期は、泡となって消えてしまった。

 なんて浅はかで馬鹿なんだろう。王子の為に全てを捨て、王子の為に泡となって消えて。


 王子は貴女に気づいてくれなかったじゃない。愛する事さえしてくれなかったじゃない。

 それなのに、自分が消えちゃうの?

 そんなのおかしい、間違ってる。消えるべきは王子だ。真の恩人に気づけない、浅はかな王子。

 そんな事に考え至らない人魚姫は王子の上を行く馬鹿だ。そんな人魚姫の気持ちなんて分からない。


 ──ずっとそう思って来た。


 でも、今なら分かる。人魚姫の気持ち。

 好きだったんだよね。ただ純粋に、ひた向きに。そして大それた事は望まない。

 ただ傍にいたかったんだよね──。















 いつの間に眠っていたのか分からないけれど、私は目を覚ました。

 目の前に広がるのは、なじみの公園。子供達が滑り台やブランコ、シーソーなどで遊んでいる。

 そして私はベンチに座っていた。


 あれ…? 私、何でここで眠ってたの?

 少しだけ呆けて、動き出す思考回路に集中する。


 ──ああ、そうだ。私、ここで待ち合わせしてたんだ。


 相手は、付き合って一年になる二歳下の理人。

 出会いのきっかけは、妹の文化祭。友達とはぐれた私に声をかけてくれた。

 それから少しして、偶然街でばったり会った時に唐突に告白された。一目惚れしたんだって。
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