白銀の景色に、シルエット。
届かない空





 私にはもう未来はない。


 だってもう、歩く事もチェロを弾く事も出来ないのだから。








【届かない空。】








 一ヶ月前、私は週二回の音楽教室に通う為にバスに乗り込んだ。

 そのバスに居眠りの大型トラックが衝突し、反動で私は首を強打した。


 乗客六名の内、死者二名。重傷者四名。双方の運転手も死亡した。


 私は運良く助かったものの、脊髄損傷の為に首から下が動かなくなってしまった。

 一生ベッドの上で寝たきりなのだと宣告された。まだ花の盛りである16歳の私にとってそれは、死にも等しい宣告だった。


 自分で何かをする事が出来ない。ただひたすらに、天井と向き合い窓から空を見上げる生活。

 大好きだったチェロを弾く事が出来ない事が、何よりも苦しかった。


 歩けなくとも良い。せめてチェロが弾きたかった。大好きなチェロが弾きたかった。

 自分のこの手で、指で、あの低くとも滑らかな音色を奏でたい!


 そんな些細な願いすら、今ではもう叶わない。


 つぅっと涙が零れる。いつも涙を拭っていた手は最早動かない。

 悔しくて悔しくて、この世から消えてしまいたいのに、自ら命を断つ事も出来ない。


 行く宛のない虚しさと怒りと悔しさは再び私の元へと戻ってくる。


 どうして私は生きてるの?

 どうしてあの時死ななかったの?


 そう思えば思うほど、涙は溢れて止まらない。


 誰か助けて。私を救い出して。


 生きていてくれるだけで良いの。母はそう言った。

 どんな姿でもどんな状態でも、お前は私の大切な娘だ。父はそう言った。
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