白銀の景色に、シルエット。
還る夜の足跡。
車椅子に座ってぼんやり仏壇を見つめるおばぁの姿は、おじぃが生きていた時とは打って変わって頼りなかった。
以前のおばぁは、強気でワガママばかりで家族みんなが手を焼いていた。それだけに、今のおばぁの姿に皆が戸惑っていた。
【還る夜の足跡。ー前編ー】
ジューシーの匂いに誘われ台所に入ると、お母がジューシーをご飯茶碗に盛っている所だった。
「幸作。おばぁは何してるの」
「仏壇のとこでとぅるばってる<ぼーっとしてる>」
「はぁ。大丈夫かねぇ」
「知らん」
「ひじるー<冷たい人>だね、アンタは」
「おばぁ好きじゃないのに。どーせ、おばぁはお父が一番だろ」
「だけどさあ。アンタのおばぁでもあるでしょ」
「………」
これ以上小言を聞きたくなく、俺は台所を後にした。
すると相変わらず仏壇を見つめるおばぁが視界に入る。
それと、畳間で扇風機に当たりながらゴロゴロしているお父。
思わず溜め息が零れる。
叔父さんは仕事、叔母さんは用事。厄介事や行事は全て、長男の嫁であるお母に押しつけられる。
行事の度に老人ホームから外泊許可を得て実家へ戻って来るおばぁは、毎度毎度お母に「ああじゃない、こうじゃない」と文句をつけていた。
お母はそれが嫌で、行事前になると溜め息や憂鬱顔がやたら増える。
お父はそれを知っていて、手伝おうとしない。おばぁに物言うだけだ。
それが更にお母のストレスになっている事を、お父は知らない。
じっとおばぁを見ていると、去年の9月におじぃが胃ガンでこの世を去った日の事を思い出す。
元々、おじぃとも仲が良い訳でもなかった。
おじぃは本当に無口で、何を考えているのか分からない人だった。幼い頃に何度も遊びに連れて行ってくれたのは覚えているが、あまり記憶にない。