白銀の景色に、シルエット。
ただ立ち尽くしていた。
死んだ時と変わらない服装、痩せこけた顔。
固唾を呑む事が精一杯な俺の方を、おじぃはゆっくりと振り向いた──。
【還る夜の足跡。ー後編ー】
「お……おじぃ……?」
上擦った声で問いかけると、相変わらずの無表情を貫き通し、すぅっと消えていった。
ありきたりだが、見間違いだったのではと目を凝らした。が、既におじぃの姿はなかった。
(な、何だ……今の)
ドクンドクンと高鳴る胸を押さえる。
(帰って来たのか? おじぃ)
今日はウンケー。祖先や今は亡き家族達を迎える日だ。
それに加え、ここは沖縄。ユタ(神の声を聞く巫女)がいるくらいだし、不思議な事が起こっても──幽霊が出たとしても不思議ではない。
俺は腑に落ちないが、考える事をやめた。
考えたってこの手の事は答えの出しようがない。ひたすら迷い続けるだけだ。
俺はそう自分に言い聞かせた。
──それからというもの、おじぃは度々現れた。
実家で飼われている犬と戯れている時、にゅうっと覗き込んで来たり。定位置だった場所に生前のように寝転んでいたり。
何がしたいのか全く分からなかった。元から何を考えているのか分からない人ではあったけれど。
おじぃは神出鬼没に現れては消えてを繰り返した。
どうやらその姿は俺にしか見れないらしく、お父やお母達は普通通りに過ごしていた。
俺に霊感なんてものは備わっていない。おじぃを見るまで、今までに一度も見た事はなかった。
今でも尚、おじぃ以外の幽霊は見た事がない。
おじぃが帰って来た以外に特別な事はなく、平坦な二日間が過ぎていった。
今日はウークイ<送り>。帰って来た祖先や家族達を送る日だ。
夜8時にウークイが始まる前に、俺はおじぃの姿を捜した。
今日で最後だ。そう思うとどうしても、俺に姿を見せた理由を訊く事、葬儀の時に言えなかった言葉を伝える事をしなくてはならなかった。